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平成26年09月号 | |
上石隆明 |
琴線にふれたる別れ苦しくて駅へと向かうも夜がかがよう 木のじかん風のじかんや空じかん凭れるものを得たる幸せ 実りたる巨峰ひと粒食みしあと祖父の畑の温もりかえる 月のひかり浴びて冷たき吾のこころ胸もとにある坂を見上げる 千年のじかんを待つは幸せかしっとりと咲くヒマラヤカスミ草 蒲団干す必要いらぬ介護ベットのビニール越しは温もりもなき |
古屋のもり 斉藤芳生 |
「ふるやのむりどの」みな忘れいし日本を雨叩きやがて湯気のたちたり 怖ろしきは「ふるやのむりどの」にっぽんの天井板の何処より腐る おそろしければひともけものもにげるのだ「ふるやのむりどの」来ん雨のなか 「ふるやのむりどの」遠きこころに漏る雨の膝までしみてちちはは泣かす 「ふりやのむりどの」古屋さがして彷徨える日本に伸びてゆく立葵 首都圏の梁を伝いて滴れる「ふるやのむりどの」濡れる被災地 |
水野洋一 |
空穂宅の庭に遊びぬ下駄履いて質素な家にこころ癒さる 梓川に手を伸べてゐる早暁に高橋孤星の案内受けて 大王の山葵定食食んでゐる口に含みぬ水は清らか 碌山のみやげに買ひぬブロンズの鐘は響きぬ蔦の上から 碌山の豊満裸体を眺めみるスプリンクラーの霧は虹色 |
鴇 悦子 |
どこに進む。我が郷佐渡に基地ありて進駐軍見し幼日蘇る 自衛とは国内向けではなかったか撃てば撃たれる標的となる 裾上げの布の折り目のごとき日々無事のためにと溜めこんだ嘘 饒舌になる日は我はストレスのマグマ溜まりて噴火のごとし ダリアの芽グラジオラスの芽顔出しぬ汚染土埋めし山砂の上 側溝の泥上げ道路の除染みる半減期過ぎし四年目にして |