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平成26年11月号
上石隆明 切り返す言葉は悲し振り返り身構えた人はのっぺらぼうなり
足裏に冷たさ感ずる板の間か夏が去りゆく寂しきひと日
身のうちを好きになれずに五十年悲しくなりて飲み干す日本酒
ショートステイ母の荷物を詰め込んだ小さなバックにすまぬと手刀
人間と野生動物境界を隔てしものを切り裂きし震災
斉藤芳生 あらがわぬアサギマダラを手につつむ旅の途中にあるものかろし
わたくしたちにふわりふわりとおりてくる蝶の群れ、やがてひかる湖
あかあかと夕焼けているふるさとの草刈り機ながくながく響かす
竹群の撓る一本いっぽんの静寂に打たれながら目を閉ず
トンネルの出口一本垂れている葛の蔓長き雨したたらす
雨長く耐えて木通の実はみのり卓の上しろき果肉をひらく
アサギマダラ三千頭を運び来し空よ空、にっぽんに雨降る
水野洋一 祖母の墓参りしあらば茫々と炎熱の下くさをを運びぬ
いさかいにくるいあるなり震災のキズを見逃す母は吝薔
六十年過ごした垢をぬぐわんと初体験の滝の修行に
わかばこく空気きれいな鹿沼市清流ながるるわれは初心者
鴇 悦子 一度聴けば音探りつつ曲吹きし父の面影ハモニカ持てば
来たと聞けば米、銭持ちて走りゆく分家の庭にポン煎餅屋
婚家より実家の墓に入るとの今頼む心察して娘は黙す
弟の逝く日過ぎれば四百年続きし墓の守り人の無し
働く追いつく貧ありて塾やめる児の事実見よ総理の虚言