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平成26年12月号
上石隆明 この歌稿アップロードされゆく見えぬまま無線LANなる不思議なものに
正確な時を刻めり電波時計移ろい行けり紅の夕雲
黒蟻が這い出さなくて夏過ぎぬ天地異変がまたも来たるか
福島の汁が滴る桃が好きだけど食べられず送れもせずにいる
彼岸花ほっこり咲きし狭庭なり滴流れて衰ろうこころ
じゃーんと打つギター悲しや音こもり秋の長雨北窓叩たく
窓口で罵声浴びせて罵りしこの男にも息子はおるに
斉藤芳生 音たてぬ秋の蚊柱草の穂追えばくずれて有明かりなす
「フクシマ」と唾を飛ばして叫ばれるたびに痙攣するまなぶたは
よく切れるけれども藁半紙のような「正義」はしまっておいてください
がらんどうの日本だ、と見上げいる我と一本杉はまたぎ越す月
待ち続けることに慣れゆく あたらしいKindleに頬照らされながら
吐きだせばわたくしも大地に帰る秋の果実のもつ酸ゆき芯
水野洋一 ハイヒール履くも珍らか被災地を訪づれてゐる泥をはらひて
西宮市に行きし時あり「すばる舎」に西定春は我を誘ふ
九日分荷物背負ひて彼の都市に写真一枚撮ることもなく
ふるさとを差別してゐる金卵子腐乱してゐる都市に染まりぬ
鴇 悦子 これまでに団塊の数を知りつつ今騒ぎたて福祉を削る国の政策は
くっきりと夜の日本の浮かびいる地球図を見る児らと寺子屋で
江戸前の本家と言えども弟よお前亡き後は墓守の無し
全身を貝殻虫に被われし月桂樹よ汝れを撫でている
悦子とは父つけくれし名なれども今しばらくは悦子になれず