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平成27年02月号
上石隆明 お習字を習いし記憶はいつなるか朱の加筆されし喜びかえる
新しい新幹線が登場すも吾乗る車輌いつも旧型
鮮やかに触れあうことのむずかしさ子を持てわかる父の気持ちが
長爪を切れば飛び散りそこに無く朝日差し込む床に見つけし
あてどなく町をさ迷う衝動にかられておりぬ歌会の後に
新しい傷が増えざるこの日頃挑戦するを躊躇いており
きゃら
斉藤芳生
福島盆地にきゃらと呼ばれて椋鳥の大群夕の空に渦巻く
ふるさとの嫌われ者にも冬は来る「あいつはきゃらだ」(わたしもきゃらだ)
きゃら群れて鳴いて喚いて限りなく膨らみながら生きて、悪いか
むく鳥の子が、とうさん鳥と子らに読むひろすけ童話をしろくする雪
おお、きゃらの大群騒ぐ夕刻の塾講師中三女子を叱咤す
群れという影真っ黒に膨らめば県庁上空きゃら無敵なり
その糞の夥しさよ大群の椋鳥霜の夜に眠れば
水野碧祥 神ほとけ何処にあるや被災者の魂を蹴散らす五輪狂騒
ベートーヴェン第九に我は救はれむ「神」に救ひをけふも祈りぬ
ふくしまを脱し続ける十五万虚偽の報道今も未来も
甥姪の十人逃げる沖縄に人の温もり感じてゐると
年経れど今の還らぬ友思ふ門松ことしも飾ることなし
鴇 悦子 口笛のような木枯らし吹く夕べ吾娘の胎児の心音聴けぬと
咳込めば腹痛ありて体力は引き算されて落ちゆく師走
必ず一点触れて寝る猫よお前と私の絆の証
鳴いて言い目にて餌欲る三毛猫よお前は絶対自閉症じゃない
葉影なき枝で鳴くのかツピイツピイと師走寒雨自転車漕げば