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平成27年03月号
上石隆明 震災と原発の歌ならいくつでも作れる今の侘びしさがあり
永遠のものではなくて我が裡の写真は黴びしセピア色にて
きっかけは偶然なるも君は逝く忘年会の十日過ぎしを
いつまでも笑顔の君に去り難く中野駅前永遠の別れや
千草ではいつも我の右側に座りて姉なりと笑し君なり
親という仕事の末は図らずも吾子の無心も悲しからずや
斉藤芳生 杉の木の昏き緑とわたくしを吹き抜けて里へ降りてゆく雪
冬の林をぬけてあなたに逢いに目交いに雪、睫毛濡れたり
海遠く凝れる雪を越えて行くたたみて永き帆を我は持ちたちり
平行線という哀しみのあまた響る福島に子らは作図終えたり
静物が静物として許される風雪の吹きこまぬアトリエ
故郷より誰何の声は響くなり声たちまちに凍るくらやみ
水野洋一 鬱鬱と鬱鬱鬱と鬱鬱と怨嗟の声を誰にとどけむ
PTSD悩み続けるこの三年日本を信じぬ季節を経れども
暗闇 人の眼怖い睦月また腕の震へに短歌も書けず
沖縄に住んでゐるなりこの三年ひ孫の声は今朝も聞こえぬ
携帯に元妻るるの声とどく「心配」だよの声は片言
千通のメイル交わしぬ元妻と四十一の声は溌剌
鴇 悦子