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平成27年05月号
上石隆明 膝の上夢身の祖父が叱咤せしお椀にひとつぶ米残ししを
また増えし証明書類が数多あり消して直せるボールペン出て
赤文字が埋め尽くしおり建設業更新書類は今日が締切
たっぷりの白米平らぐ母がいて底冷え寒き月命日は
痛みたる心とともにゆらゆらと灯りて優しハリケーンランプ
焦りとは違う切迫湧ききたる長男生れて抱きし時に
丑三つどきひたすら研ぐ出刃ひたすらに哀しみ数多を消し去るために
斉藤芳生 春期講習会のチラシの緑色濃き中に我も授業しており
体験入学の問い合わせ(今日は父親の)円空仏の微笑みに受く
「四年前はもう閉めようと思ったが」福島の塾なべて盛況
酔茗の「ゆずりは」を読む哀しみよ春待つ子らを着膨れさせて
大試験なべて終われば静かなりほう、と息吐くような紅梅
頬寄せて君の傍に眠るとき里山深く蝋梅ひらく
水野洋一 絆なき人は語りぬ「絆」だと連呼している選挙のやうに
寒冷の前線とほる夜もすがら腰を温める石油ストーブ
石部から文は届きぬ元気かとうつ的われに万年筆は
ゆつくりと歩めば着きぬ美術館絵はがき選び君の御元に
通信の通学許可証とどく春入学式の準備してゐる
鴇 悦子 水田に餌を啄み羽ばたける三羽の朱鷺の羽裏の朱し
餌を啄み水張田の朱鷺夕陽浴び三羽がカオカオ鳴き交わし飛ぶ
餌をつつく朱鷺舞いながら夕べにはねぐらに帰る親子なるらし
チューナーを回せば世界の声々を聞こえる不思議大寒の真夜
喜びを全身でするグルーミングそんな生き方をしてみたかった