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平成27年09月号 | |
上石隆明 |
冷やしたる目薬差しぬこの夜半疲れし心は闇に絡みぬ 線量計携え会津旅したと傷つく話何故言うあなた うす曇る湿度充ちたるこの国の未来描けず揺らぐは何か 曇り空射し込む朝日に紫陽花はたっぷり包み雨粒かえす 幾たびも忘れし言葉ひきし日の記憶は遠く棚に広辞苑 |
斉藤芳生 |
福島びとわれらの好む硬き桃さりさりと剥くしろがねの夏 学校でも家庭でもない塾に来て近すぎず遠すぎず笑う子 めでたくも時給百円上がりたり個別算数×二時間 カタストロフィー、パラダイムシフト 論説文にあれば辞書引く福島の子は 勉強しろ、賢くなれ、と子に唱う我らの無知を深く恥じれば 福島に遊びに来てね、と言いしかばたじろぎし人 もうながく会わず |
立山 水野洋一 |
誕生日祝いにもらうプレゼント電波時計はアルプスの色に 弥蛇ヶ原乳白色に包まれて泥に塗られた靴を見ている 祠から見下ろしている黒部湖浄らかなるや遙か彼方に 剣御前驟雨は続く夜も更けて麦酒片手に身をも寄せつつ 夜も深く黙し眺めん室堂に宇宙の果てに思い馳せつつ |
鴇 悦子 |
一瞬一瞬を生きている今 ライオンキングの観劇をして 姑逝きて四十年の肩の荷がほどけてしまう葬儀のあとに ふと眩暈することのあり眼つむりて深呼吸するベットわきにて 噛めば噛める不思議さに浸りロボットの心地しており夕時独り 糖尿に良いと友から電話あり玉葱氷で気休めをする |