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平成27年10月号
上石隆明 チェルノブイリ超えると故郷煽りたる韓国記事はこころ蝕む
かがまりて葱をきざむも遥かなる作る夕餉に父を感じぬ
デドッポー朝ごと鳴くし屋根上に崩せぬ闇を吾に託して
さくら咲けば水の冷たさ感じずに長葱サクサク刻むは愉し
帰り来て戸の錠鎖せば家中より煮込みし大根嗅ぐうれしく
百年の雨風受けしこの土壁朽ちいく齟齬のビニール悲し
斉藤芳生 水という快楽 夏の朝なれば水は草生のいろに輝く
見当たらぬ手帳さがし一日の暮れてにおえる追熟の桃
「フクシマ」という場所を私は知りません。ぽかりぽかりと桃は熟れゆく
彼らの言う「正義」つくづく愚かしく桃剥けば桃の汁あふれたり
追熟を経たる白桃を剥く夜の福島に鋭き刃物はいらぬ
春がもっと長かった頃人と鳥は腕と翼を貸しあっていた
螢から生まれたような淋しさの池の底ひへオールを落とす
水野洋一 返還前沖縄訪うは二十歳二百ドル紙幣片手で握り
新製品ラジオ以外に物はなく柳行季の中米穀通帳
ヘルメット角帽ありぬ片隅に安保闘争に思いを重ね
ベ平連あじブラ配る清水台インターナショナルの声は高らか
鴇 悦子