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平成27年11月号
上石隆明 すぐに火が通りてしまうこの南瓜卒寿の友より賜りしもの
抗菌がアトピー増やす原因とニュース聞きつつこねる糠床
散り散りになってしまうかこの家族ひと時だけの幸の記憶は
心配の種は消えぬか何時までも帰り来る子の笑顔見るまで
ながつきのそらの青さが眼にしみぬ悟られぬよう畳むこうもり
斉藤芳生 余花に降る雨あたたかくやわらかくふるさと遠くひとを眠らす
ガイガーカウンターとうまことよき玩具携えて「フクシマ」を観に来たり
無邪気なるてのひらは来て熟れ過ぎた桃のようなるこころを潰す
朝採りの桃とわたくしを置きざりにこころも遠く離れたるひと
福島の桃の糖度をよろこべば「御用住民」と言うひともいて
見てあればなぜなぜと生れゆく水輪 福島の桃冷やせる水に
売り物にならぬ陰謀論なども棄ててゆけ、夏の堆肥置場に
沖縄・雑感
水野洋一
乳母車曳いて語りぬ衛兵と将校の妻キャンプ嘉手納に
占領軍「守礼の門」を野晒し七十一年は朽ちてそのまま
糸満の崖から眺む艦隊を健児は縋る弥勒菩薩に
全軍労むかし勤めたマスターの醤油ラーメン喉を潤す
総理府の旅券を固く握りしむアメリカ領に黄砂流るる
鴇 悦子 流産をした児が二人いることの後ろめたさに水子建て拝む
吾娘は妊婦、死産の後をのり切りて筋腫もちつつ禁酒し過ごす
教え子は夫と我とを誘いては今年は富士の五合目へ行く
自宅にてパン屋開きし吾娘は今、ベーグル作り教える身となる
ハモニカを吹いてた父は音感の鋭き耳もてさぐりつ吹きぬ