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平成27年12月号 | |
上石隆明 |
幸せの尺度違えしこの夕べ子供出来たと不意のメールに 疎ましき心根持ちし吾ならば麓山の森にくわがた探す 緩やかになだり進みし朝散歩いつもの店に牛蒡が匂う フクシマの国際語なんて要りませんただに普通の福島の字を 平凡に生きるが良しと妻言いいて伏したる吾にタオル当てくれ |
斉藤芳生 |
千の蝶、万の樹木をのみのみてふくらみやまぬ霧は生きもの 霧というもの言わぬ生きものの中 耳元を蝶が飛んだ、気がする アサギマダラもアサギマダラに手を伸べる我も濡れたり霧雨のなか 振り返ってもくれぬ背中を記憶してしんしんとわが脳冷えゆく ああ霧は裏磐梯をのみこんでまた吐く 蝶は今し飛び立つ 人間われら藪かき分けて歩むほかなくて見送る千頭の蝶 |
水野碧祥 |
かの声は微かに耳に残りたる高田の松のキャンプ・ファイヤー 震災ののちに戻らむ故郷なく唱歌「ふるさと」虚しく歌ふ 幾たびも傷つきされど起きあがるPTSDの震へ今なほ 飾りなく疣なし鐘の音は深く虚空蔵尊に木霊してゐる 熱田神宮焼肉食みし五年前るるの指にはリングが光る |
鴇 悦子 |