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平成28年05月号 | 平成28年06月号 | 平成28年07月号 |
上石隆明 |
「隆ちゃんのお父さん」と呼ばれいて名前を忘れ去られて久しからずや マイナンバー我にも届きし夕暮れに鰯の頭を柱にさしぬ 風になれぬ我の孤独は限りなく凍てつく夜の闇に死たり 肉野菜ごった煮した鍋の中憂いと孤独ルーと溶けいく 吾にある心の鏡を壊しいく息子というはまこと奇なもの 雨音に誘われ母はうつらうつら断ち切りたきこと何もなき幸 |
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斉藤芳生 |
白木蓮の香り凜たり太き苞を割りひらきたる痛みの後の ひらきはじめのはなびらにしわのあること羞しさに木蓮は沈思す 怒ること哀しむことにもやがて倦む財布の鈴をちりちる鳴らし 白い凧揚げて子どもがつかまえるぴいんとますっすぐな春のひかりよ あ、まちがえた、とつぶやく子どもの鼻濁音嬉しくてぽんと咲く木瓜の花 間違いは誰にでもある消しゴムで消してはならぬこと、消えぬこと ぞくぞくと孵る春蚕の蠢いて祖母たちに今も続く夕暮れ |
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水野碧祥 |
宝塚月組スターの龍真咲男が惚れる男みている 宝塚の村人となる一夜のみ鹿鳴館の時間みている 本欄の「昇欄」するは誠かとエイプリルフールの明日を見ている 自信なき我に勇気を馬場かりん高橋孤星の粋を感じる ロッキングチェアーで読みし歌集には水仙の白輝いている 護国寺のさくら眺める遊歩道信達平野に夢を広げる |
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鴇 悦子 |
教え児は我の喜び三十五年勤めあげ寺子屋と塾ボランティアする 救急車に乗るのは二度目、過呼吸と自転車に乗りて車にはねらる 桜とう名前をつける吾娘の言う三月半ばに生れる男孫に 母想わぬ時などなくて叱られた記憶もなきに我はまねられぬ 脳トレと称して本をあながいて解きており老いゆくボケ防止にと |