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平成28年06月号平成28年07月号平成28年08月号
上石隆明 切れかかる蛍光灯のほの暗さ平和の炉火に永遠の嘘
初夏のひかりの粒を浴びるごと長葱すくすく窓辺に育つ
休みなく咲き続けたり滝桜この世にいないあの人思う
青芝に埋もれし記憶も遙かなり小さき吾子が横で欠伸す
青空にどっぷりつかる心地かな死んでも良いかと叫んでみたり
役所より差し戻されしこの書類愚痴続きたり雨降りやまず
斉藤芳生 「ゆとり」と呼ばれた日にはカレーを煮る、と言う若いあなたの底深き鍋
螺子という螺子ゆるみいる日本に雨浸みる夜をカレー煮るなり
広辞苑よりかさりと落つる押し花の白茶けて思い出せぬ春の日
山桜の花をはさんだのはあなた藍深き広辞苑のなかほど
福島の子ども、すまわち漉きあがり五月のひかりに濡れている和紙
紙を漉くようにやさしく、しかしつよく子を諭す君も福島のひと
あふれてやまぬ恋のようなる風は吹き天心に島を押し流しゆく
水野碧祥 眠られぬタイムもあるよ真夜深く出雲風土記を大社みてゐる
尖りたるHで書きぬわが日記ふるへる指を叱咤してみる
角帽を被る姿も恥ずかしく標本木には桜舞ふなり
父からの手紙届きぬ隔月に故郷の報せ伝へ来るなり
鴇 悦子 船室で他人の言葉の訛り聞き問えば老婆は同じ福島
ラジオよりニュース伝えるアナウンス紙めくる音サラッサラッと
陽だまりに体縮め伸びをする三毛猫のいるリビングぬくし
おくび出て止まらぬ気配口に手を当て止まるを待つ夕つ方五月
種蒔きし赤カスミ草幾本も芽吹きて咲きぬ立夏を過ぎて