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平成28年07月号平成28年08月号平成28年09月号
上石隆明 あちこちに体毛抜け出るにょきにょきと鶏の心地す夕べの塒
音立てずコップ水置く枕元母の寝息を確かむ今日も
配らるるテッシュペーパー多き国 幸の高みを思うも悲し
悲しげなプルプル止まるスマホかな大震災に使えぬ日あり
おはようを言えない闇を抱えたり騙し騙してわれを生きらむ
ユンボーがもうと埃を立たせたり彼岸の国の悲しみを聞く
斉藤芳生 樹木の二人に届かぬ阿武隈川の風遠く柳の樹を揺らしいる
わたくしたちの上つばくらめ飛んでゆきもどらぬ先にあのひかるのが
長沼智恵子戸籍名チエ写真あり「ほんとの空」をのみ知るころの
練絹の白さに雲の流れゆく空のこころはひとを恋うこころ
智恵さんと呼べばかなしも紙絵なれば褪せてゆくほかなき花の色
祖父の声はた山の声畦道にこの空梅雨(カラツユ)を嘆じていたる
林檎の花透けるひかりにすはだかのこころさらしてみちのくは泣く
水野碧祥 躓ける学生叩く機動隊カルチェラタンに逮捕してゐる
機動隊やりたくないと隊長はタバコ一服の軍備服装
保守的なれと大学なれどベ平連ジグザグデモに意志を示しぬ
冬なればカレー饂飩は馳走なりし小銭つかみぬズボンの中に
景品にもらふビーズで洗濯を洗濯板の水の冷たさ
みちのくは鎮魂できぬ靖国に三本の矢愚昧なるべし
鴇 悦子