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平成29年05月号平成29年06月号平成29年07月号
上石隆明 ふるえたる声の聞こえる夜半なり絶えいる命か結論は出ず
恥のみの記憶立ちたる今宵なり深く息して沈丁花嗅ぐ
擦り切れし運動靴を今日もまた捨てきれずおり潔くなりたし
薄紙は我の指先すこし切り蝶舞うごとく赤く落ちたり
自販機は硬貨の冷たさ飲み込みてこの世の熱き珈琲吐き出す
店先に並べられたる眼鏡の返すひかりはいつ死ぬのだろう
斉藤芳生 錆びれたる、否、寂れたる温泉施設 灯ともしごろにゆらゆらとあり
巨大温泉施設堂々と錆びている四十年間濡れっぱなしの
「みどころは柴山潟の大噴水」予定時刻を過ぎて噴きたり
いっしょうけんめいがんばっている大噴水は頑張ってきた父に似ている
牛乳瓶の底のような、とこのごろは言わなくなった 眼鏡がくもる
あと何度母のはだかを見るだろうしょっぱい温泉の湯気のなか
日のかげる前のあかるさのなかにいて湖は父母のこころを濡らす
水野碧祥
鴇 悦子