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平成29年07月号 | 平成29年08月号 | 平成29年09月号 |
上石隆明 |
吸い上げるちから失うシクラメンさびしさ残し帰るか言霊 じっくりと塩もむ青紫蘇香りたち強ばりる心をほぐしてくれし 買い来たる南高梅は香りたち梅雨迎えるを伝えてくれる 何もかも終わった気がした三月は放埒、鬱を抱え梅咲く 枯草のかたまる蒲団に蹲る白猫一匹素早く逃げて わたくしとあなたの影が重なりて春の電車に眠り続ける |
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斉藤芳生 |
「外国にはもういかないの?」いかない、と答えて彼方(アナタ)見れば つちふる アブダビってどこ、と問われてそういえばこの教室は世界地図がない 逃げようのなき砂嵐迫りいる王都を思えば湧く赤き砂 砂嵐来なば地に臥し耐うるのみの駱駝のように今宵眼を閉づ (砂礫よりもざらざらとしてわたくしの言葉はきっと痛かっただろう) 日本の泰山木はよく香り粒粗き砂の痛みを知らず ナツメヤシの実をたべ、種を舐りつつ外国(トツクニ)にわが詠い来しうた |
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水野碧祥 | ||
鴇 悦子 |
上野への旅行に我は疲れ果てその場少し泣きそうになる うさぎぶた見あきしものを見て孫娘声立て笑えり動物園で 吾が実家山羊飼いており干し草をあたえし乳は干し草のにおい 亡き吾娘の形見は全て取り置きぬ抱きしめやらぬ悔いの残りて 抱きしめて欲しいと言いし亡き吾娘を抱きしめやらぬ悔いも残れり 祝いにとウォーターバックくれし吾娘命縮めてこの世を去りぬ |