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平成29年10月号平成29年11月号平成29年12月号
上石隆明 置き去りにされたる夢のわれなるや寂しさ引きずり軽くパニック
生きずらきこの世の中だと嘆く人戦時中より絶対ましだ
母籠もる静かなる家の昏き靄言葉もにがく溢れだす夜
たなごころ向き合いいれば寂しくも「さま」に呼び合うこの病院も
いつよりか嫌いになりしキンモクセイ皿を洗えば香りしジョイは
斉藤芳生 ぬばたまの夜の川渦巻くところ蜉蝣の生れ出でては呑まる
わが渡らんとする橋をかく覆いいる蜉蝣のおびただしきいのち
白い白い群れは叫んでいるようだ蜉蝣、かげろう、かえろう、帰ろう
人間はただただ逃げるように過ぐ蜉蝣の狂喜乱舞のなかを
蜉蝣の乱舞の果ての生臭さ朝の大橋に吹き溜まりいる
蜉蝣の乱舞ののちの静けさを渡り来る水のかおりの秋気
どうしようもないからこのまま濡れていく霖雨に煙る君の部屋まで
水野碧祥 実之も清見糺も小高氏も俳句文学館に元氣な声が
入賞の短歌の評する小高賢晴れ着すがたの女性みている
一首も詠めないわれにアドバイス中田文氏のメガネみている
初恋のきみの文みる十七歳モノクロ写真の唇もきよらか
浜名湖の砂をつかめば悠久のときの流れを感じつつある
鴇 悦子 我が孫は保育園にて喘息を患いながら英語習えり
亡き吾娘の形見は全て取りおきぬ夫と私も写真を飾れり
亡き吾娘は絵も詩もかnozaki きて命断ちぬ形見の品は取ってあれども
我に二人水子地蔵が墓におり元旦に夫と参る習わし
吾が郷に朱鷺が生息しておりぬ今では放鳥する迄になり
野崎美紀子 百日紅の花房重く揺れもせず夏の日盛り風澱みゐる
茗荷刻み青唐刻み紫蘇を揉み香り立たせて夏の昼餉は
これはなに 青く浮き立つ静脈を「めいろみたい」と子らはなぞりぬ
「トーマスつてかはいいなまへだね」と二歳歌ふ口もとトマトのやうで
メドウセージ、ムラサキシキブも締め括り揺れたき花の揺れ知らず夫は
くうくうと軽き寝息に安らぎて犬の形に添ひ寝してゐる